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新盤日和見天体図

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我ら、王の死を知らず・1(グ/レ/ン/ラガン・シモンとヴィラル)

 我ら、王の死を知らず
01
 
 
『艦長』
 
そう呼ばれるたびに、湧き上がる僅かな違和感はいつになっても消えることがない。
この場所に立ち、巨大な宇宙戦艦を指揮するようになって人の時間でもう二十年ほどの月日が流れた。いかに時の流れから投げ出された身だとは言ってもそれでもその時間はけして短くはない。
ただ、周囲の誰に聞いてもこの二十年は瞬く間に過ぎてしまったと言う事は予想がついた。
非常に矛盾しているが、それが真実だ。
二十年前のある日、ひとりの人間に導かれた自分達はアンチスパイラルを打ち破った。それをきっかけに、今までその存在すら未確認だった宇宙空間に拡散していた人類、同じようにアンチスパイラルの監視下に置かれていた者達との交信が始まったのだ。
アンチスパイラルの消滅を異口同音に寿いだ彼らは、しかし各々の利害を主張し協調の道を望みながら実現することがかなわなかった。その軋轢はとても言い現せることはできない。
しかしこちらにはアンチスパイラルを斃した、という覆しようのない事実がありそれは類を見ない強みとなった。
そうして今日のこの日がある。
ただ、この宇宙における人類を導くその座に就いたのはかの英雄ではなかった。彼自身もある意味では英雄の一人に間違いはなかったが、それでもそれは長い時間をかけて遠い先の未来に評価される歴史的事実としての英雄である。
歴史を学ぶ教科書には彼の名前や生年月日、そうしていつか没年が書き込まれるのだろう。建国の歴史と共に長い黒髪の彼の名はそうして残っていく。
だとすれば、あの男は神話の英雄になるのだろう。今でこそ、人々の記憶に残るあの男の話は、酒でも入れば日常の些細な癖から、あの想像を絶する決戦まで尽きることはない。
だが、やがていつか物語として語られるようになるだろう。彼の記憶を持つ者は残らずいつかこの地を去る。彼の真実はいつしか忘却され、神話になるだろう。
そうしていつか自分はそれを聴くのだ、必ず。
『艦長?』
 モニターに映る部下の顔が怪訝そうに自分を見ている。呼びかけから答までに間を置いたことは殆どなかったから、僅かな沈黙すら不安をかきたてたのだろうか。仕方がないな、と部下の小心さに溜息をつくほどには、ヴィラルも人間に慣れた。
 過去には考えられなかったことだが、けして悪くはない。
「問題ない!そちらの状態はどうだ!」
 噛み付くように言葉を投げるのは何時ものことで、途端にすこし引きつった顔をする部下の目尻に刻まれた皺を見て、ああこいつも歳をとったのだと唐突に思った。
 変わらないのはヴィラルだけだ。別離も、もう数え切れないほど経験していて今更どうこう言うつもりはなかった。
 覚悟していたことであるし、続いていく血の中に、彼らの面影を見つけることが出来る。記憶が共有できなくとも神話の中に呼び覚ますことが出来る。
 そうしてきっと彼の名前を呼ぶものが絶えることは無いし、何よりも普遍の命を与えられていようと必ず終わる時が来ることをヴィラルは知っている。
それが何千年の時の向こうであっても、ヴィラルらをこの世界に生み出した螺旋王ロージェノムがその命を終えたように、いつか。
 獣人の王が普遍の命と共に、ヴィラルに与えたものの片方がそれだ。
 終わりを見続けることは、だから苦痛ではない。それを、いつか。
「教えてやらなければな」
 視線を前方に戻せば無数の星を抱いた限りなく漆黒に近い藍い闇。見当違いな優しさでヴィラルの前から消えた、この闇と同じ色の髪をした彼に。
「…待っていろよ」
 今はまだその時ではないから。
心の中でそれだけを呟いてヴィラルは部下に指示を与えるために胸に大きく息を吸い込んだ。
 
 荘厳な宇宙戦艦が放つ光を、地上から片方だけになってしまった瞳の男が見上げていた。
 
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