手土産を持って(鴆×昼リクオ/甘)
手土産を持って
一粒で二度おいしい、というわけではないが。
鴆の前にあるのは二つの包み。
一つは美味いと評判の和菓子。一つ味見をしてみたが、ほんのりと優しい甘さが口に広がり、午後のお茶の時間にはぴったりだろう。
もう一つは、鴆の好む辛口の酒。
昔馴染みの蔵元から入手するそれは、しるものぞ知る隠れた名品だった。
それら二つを交互に見やって、満足げに頷くと腰をあげた。
「さてそれじゃあ行くか」
「あ、いらっしゃい!鴆君!」
「邪魔するぜ。今日は早かったんだなリクオ」
鴆が訪れたのは、奴良組本家。まだ夕刻には間があるという刻限に訪れた鴆を見つけたリクオが笑顔と共に手を振った。
「うん、もうすぐ試験だからね、学校は半日」
「試験?そりゃあ邪魔しちまったかな」
「ううん、大丈夫。ちゃんと普段頑張ってるからどうってことないよ」
「そうか?」
随分と自信があるんだな、と笑いながら手に持っていた手土産のうち、菓子の包みをリクオに渡す。
「?何??」
「なに、いい菓子が手に入ったんでな。たしかオメェ甘いもんに目がなかったろ?」
「!!うんっ!ありがとう鴆君っ!」
ぱああっと笑顔に磨きがかかる。その笑顔のためにこの菓子を手に入れたと言っても過言ではない。
鴆の苦労は早速報われたのだ。
「じゃ、ちょっとお茶入れてくるよ!鴆君、上がってまってて!」
「おう、じゃあご相伴に預かるぜ」
「鴆君がもってきてくれたんだからご相伴もなにないのにー!」
くすくす、と笑うリクオは非常に上機嫌だった。
さ、はやくと鴆をせかし、自分はパタパタとかけていく。
首なしー、鴆君がおやつ持ってきてくれたよー、お茶にしようよーと駆け出す背中を笑いながら鴆はゆっくり追いかけた。
「わ、おいしそう!」
「若、熱いですから気をつけて」
「そんなに急がなくても誰もとりゃしねえよ、ゆっくり食えや、な?」
「うん、ありがとう鴆君!」
満面の笑顔で、手にした菓子を口に運ぶ。無造作に見えて、きっちり躾けられているのだろう、所作は驚くほど品があって、鴆の表情も緩んだ。
(かわいいもんだな)
なんのてらいもなく思う自分は相当にやられているな、と自重する。が、すぐにそれも悪くないなどと思うのだから末期と言っても過言ではないだろう。
自覚はある。しかしそれが心地よいと思うのだから全くもう。
「鴆君も食べなよー、なくなっちゃうよ?」
と、リクオの声が物思いにふけっていた鴆の意識を引き戻した。
慌てて視線を戻すと、じっとリクオが鴆を見つめていた。
「いいよ、俺は。こいつもあるからな」
と、鴆はリクオの気遣いを嬉しく思いつつ言った。もとより、リクオのために持ってきたものだ、リクオが全部食べてしまったと手鴆はかまわなかった。
だから鴆は傍らにあったもう一つの包みをリクオにもみえるように持ち上げて見せる。
「?なに??それ?」
「こないだオメェに妖命酒貰っただろう?その礼に夜のお前に、な。これで一献やろうぜ、今夜は」
「………。」
「リクオ?」
楽しみにしてろよ、と鴆は告げるのだが、当のリクオは先ほどまでの笑顔もひっこめてむっつりと黙り込んでしまった。
つい先ほどまでは上機嫌だったのに、鴆にはそのわけが皆目検討がつかない。
「…夜の、僕と?」
「おう、だってお前まだ酒は無理だろう?だからオメェには茶菓子、夜のお前には酒…っておいおいリクオっ!」
「首なしっ!お茶のおかわりもってきてっ!」
「リクオ!?」
「リクオさまっ!鴆様の前でお行儀が悪いですよっ!はしたないっ!」
「いいからっはやく!」
と、いきなりリクオはまだそれなりに残っていた茶菓子を無造作に口に詰め込み始めた。
予想外の出来事に、鴆は呆然と目の前の少年を凝視するばかり。そのうち呆れながらも、首無が持ってきた茶をずず、と啜ったリクオは、一息つくと再び菓子に手を伸ばした。
呆然とする鴆の前で、次々に菓子がリクオの腹の中に消えていく。
「…っぐ!」
「って、おいおい!」
と、喉に菓子が詰ったのか、妙な声を出してリクオが口を抑えた。そんなに詰め込むからだ、馬鹿!と叫びながら鴆は腰をあげると、震える背中をゆっくりとさすってやった。何度も小さな背中を撫でていると、楽になってきたのだろう、ほう、と息をついたリクオがゆっくりと顔をあげた。
「何やってんでぇ、オメェはよ。菓子は逃げねぇし、誰もとりゃしねえよ」
いきなりのことで心配したせいか、咎める声が尖ってしまうのは仕方のないことだ。それでも、リクオは闇雲にこんな子供っぽい行為をする少年ではないことはわかっていたから、何か理由があるのか?とも問いかける。
しかしリクオから帰ってくるのは沈黙ばかりで、埒があかないと鴆は一つ溜息を吐き出した。
「…だって、僕はお酒呑めないから…」
「それが、」
どうした、と問いかける鴆をリクオが見上げる。潤んだ栗色の瞳は、どうしてわからないの、と鴆を責めている。
しばらく見つめあう。しかし鴆にはリクオの行為の理由がやはりわからず、悪戯に時が過ぎるばかり。
やがて諦めたのか、観念したのか、だって、とリクオが零した。
「だってずるい。夜の僕は、お菓子もお酒も鴆君からもらえるのに…僕はお酒はむり無理なんて」
そんなの、夜の僕も我慢しなきゃ不公平じゃない?
「……それは、お前…」
そんなの、どっちも同じお前だ、とか。
子供みたいな我侭言うんじゃない、とか。
そんなことは、リクオもわかっているのだろう。夜の記憶も、昼の彼の中に残るようになってきていると聞いている。
リクオの中で、夜の自分と昼の自分が同一であることも折り合いがついているのに、それでも自分自身に対して湧き上がった嫉妬を押さえ切れなかった。
そしてそれがこんな行動に出た理由。
意味の無いことだと、リクオもわかっているのだろう。鴆君の馬鹿!とそっぽを向いた耳まで真っ赤に染まっていた。
ああ、これは、もう本当に!
「…勘弁してくれよ」
「え?」
ポツリと零すと、リクオが振り返る。彼の大きな瞳に映らないように、鴆は俯き片手で顔を覆った。
「…鴆君」
「ああ、もう見るんじゃねえって!ったく」
「鴆君、真っ赤…」
「わーってるってのに!オメェのが移ったんだ!」
リクオの言うとおり、鴆の顔は真っ赤に染まっていた。先ほどのリクオもかくや、という勢いだ。
「…たく…わかっちゃいたけどよ」
「…なに」
まだ顔が赤いままなのはわかっていたが、いつ収まるかわかったものではないと鴆は顔をあげた。じっと鴆を見つめるリクオの顔も赤いまま。その大きな瞳に映る己を確認して、鴆は笑う。
そして引きこまれるまま、まだ柔らかな曲線を描く頬に唇を落とした。
「お前にゃ本当にかなわねぇってことだよ」
これ以上惚れさせてどうするんだと囁けば、再び真っ赤に染まった顔に今度こそ鴆は笑い声をあげた。
思わぬ収穫を与えた手土産は、その後鴆の気に入りとなったとかならなかったとか。
リクオさんはちゃんと夜のリクオも自分なんだとわかってるけど、どうしてもこだわってしまったご様子。
少し未来のお話。どこまでも甘い。かゆい。そして首無はどこへ行った。
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