懐かしい思い出
『息子よ、総大将のことをどう思った?』
この数年ですっかり線の細くなった父親が、鴆を奴良組本家に伴ったのはつい先日のことだった。
弱ってきている体には負担が大きかったのか、数日床に就いた先代は枕が上がると鴆を寝所に呼んでそう尋ねた。
『総大将の?』
『そうだあの方が百鬼夜行の長である。お前は私の跡を継ぐのであれば、それはあの方に仕えるようになるということ』
『親父殿、それは嫌だ』
『…どういうことだ』
父親の声が硬質になる。見れば、顔色こそ悪いがその瞳は鋭く厳しく息子である鴆を貫いていた。場合によっては息子であろうと彼は切り捨てることも出来るだろう。彼がぬらりひょんに誓った忠誠とはそういった類のものだった。
ずん、と重くなった空気は鴆をひるませたが、それでも彼はき、と父親を睨みつけるように見上げた。
そうして、確固たる意思を口にしたのだ。
『親父どのが契を結んだだけあって、総大将はすげえお方だってのは、俺にもわかった。でも違う。あの方は俺のあるじにはなれねえよ』
確かに、総大将は自分達とはけたの違う妖怪だった。飄々と笑っていただけだったが、それは幼い鴆にもわかった。
あの御仁を先頭にした夜行はどれだけ誇らしかっただろう。
それが父親の命を今も繋いでいることは明白だった。己も、と強く思った。
いつか百鬼夜行のその中、ただ一人と定めたその人のの背に連なることを。
しかし、鴆の追う背は父親が愛するそれとは違うのだ。
『親父殿、親父殿のあるじは、初代殿だ、それはいい。だけど俺の大将はあの方じゃねぇ』
『では誰だと?』
『リクオだ。約束した、アイツは三代目になって俺を百鬼夜行に連れて行くと』
『リクオ殿?』
父親の声の中には、リクオは四分の三も人間だぞ、とかほかの者が認めると思うのかとか、その他リクオに対しての一般的な妖怪の懸念が満ちている。
が、鴆はそんな事はわかって居る、と真直ぐに背を伸ばして父親に対した。
既に、鴆のあるじはリクオと定めた。そのあるじを貶めることは、父親であっても赦さないと。
『…決めたのか』
『決めた。選んだ。リクオが俺の主だ』
『そうか…ふ、はははははははっ!』
『…親父殿?』
『は、はは…っ!そうかそうか!これはめでたいな!息子よ、よく言った!』
『…いいのか』
『いいも、何も。諌められたいのかお前は』
『いいや。なんと言われようが俺の心は変わらねえよ』
『ならばお前のこころの望むままに。我らが生は短いゆえにおもいのこすことのないよう。』
しかしそうなると私も長生きしなくてはな。まだまだリクオ殿は幼いゆえに。
息子よ、お前も精進せよ。
そう言って頭を撫でた父親は、既にない。
息子に言ったとおり、鴆としてはなかなか長く生きてくれた。
「…鴆君?どうしたの?」
「いいや、何でもねぇ…そろそろ、か?」
「うん…そうだね、そろそろ」
「時間だ」
声と共に、闇が生まれる。深くなる闇の誕生と同時に、幼いばかりの容貌が鮮やかに変化していく。
「さて。行くぞ鴆」
そして現れたのは、もう一つのあるじの姿。
妖怪としてのリクオが空を仰ぐ。今夜は月が明るい。
「良い夜じゃねえか、なあ、鴆?」
目を細めて、振り返る顔はあの幼い日の面影を残している。
「ああ、」
この懐かしい思い出を語るには、絶好の夜ではないか。
「なあ、リクオ」
振り返って己を待つ主に向かって、鴆は笑った。
空には月。
鴆父と子鴆のお話。
そして夜リク登場。その昔鴆が子リクオに一目惚れしたのは公式設定だって信じてる。
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