「そういえば、よ」
この年上の幼馴染みが唐突なのは何時ものことだったので、リクオは読んでいた教科書から顔をあげぬままで意識をそちらへと向けた。
何時もの予定よりも早く鴆がおどずれたので、学校の宿題が終っていなかったのだ。
これで人間社会ではそれなりに品行方正なリクオである。鴆は訪れるなり、『少し待って!』と声をあげて本に目を向けたリクオに眉を顰めはしたが、それ以上何も言わなかった。
リクオはリクオで、鴆が大人しくしていてくれるので急ピッチで問題を解いていく。
予定では予習までしていくつもりだったが、今日のところは復習と課題だけにしよう、と心のなかで呟くリクオだって、本当はさっさとこんなモノを終らせて鴆の相手をしたい。
こんな風にふたりきりで居られる時間はそうは多くない。それはリクオの自宅の人口の話もあるが、夜になれば妖怪になってしまう己の身を思ってのことでもある。
夜の自分も、自分ということは認識しているし、実感もしているけれど、ほんのすこしずれが出る。
鴆との関係はその最たるもので、彼と過ごす時は昼間の自分としてあいたいと思ってしまうのだ。
それは秘密の恋人である鴆が、あまりによるの自分を褒めちぎることへの僅かな意趣返しなのかも、という可能性は考えないことにしておく。
ともあれ、そんな風に少しだけもの思いにふけりながらも、器用に課題を片付けていた時に彼の声が聴こえたのだった。
「そういえば、なに?」
教科書から目も上げないまま、問いかける。
もう少し、あと半ページ、と気合を入れなおしたところで再び聴こえた鴆の声に、思わず机に突っ伏してしまった。
「俺がお前に惚れてんのはあたり前なんだが、お前は俺のどこに惚れてるんだ?」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「おいおいリクオ大丈夫か?」
少し勢いが良かったかもしれない。ごん、と音をたてたリクオにどこか暢気な鴆の声がかかった。
「ぜ、鴆くん、なにを…」
「何をって。俺がお前に惚れるのは当たり前だと思うわけだ。第一初めて会ったときのちっこいお前が俺の初恋だったわけだし、再会しては夜の姿は頼もしい限りだし美人だし、昼のお前は申し分ない可愛らしさだ…あっちの味も最高だし」
「………………!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突っ伏したままリクオは悶絶する。
今の状況では鴆の顔は見ることが叶わない、声だけでは彼が自分をからかっているのか、それとも大真面目に話しているのか判断できない。
だからと言って今顔をあげることはできない。
なんといってもリクオはまだまだ恋に免疫の少ない、子供みたいなものなのだ。直球の鴆の愛の告白は、リクオの顔を茹で蛸もかくや、というほどに真っ赤に染めていたのだ。
あと純粋に恥かしい、というのも理由。
「とまあ、俺がお前に惚れたのは当たり前なんだが、お前が俺のどこがいいのか本当にわかんねぇ」
「何馬鹿なこと言ってんの…!」
「だって俺はよ老い先も短いし。妖怪としてもお前に守ってもらわなけりゃならねぇ。幹部格だがそれでお前を守れるわけじゃねえ…ほんとうに、お前が俺みたいな男のどこに惚れたのか全くわかんなくてよ。本当は俺はお前にふさわしくな、」
「鴆っ!それ以上言ったら怒るよ!!」
自嘲気味になった言葉に、堪らず勢い良く顔をあげた。
リクオは鴆を守ると宣言したその日から、その誓いを忠実に守っている。鴆を貶める者は許しはしなかった。
そしてそれは鴆自身であっても言えることで、沸きあがる怒りと共に顔をあげた、のだが。
「言い忘れた。お前のこういうところも好きだぜ、リクオ」
「!!!!」
そこにあったのはしてやったり、と満面の笑みを浮かべた鴆だった。
「…っな!」
乗せられた、と怒りが脳裏を駆け巡るが、時既に遅し。きような鴆の手は、リクオの顎を掬い上げると深いキスを仕掛けてくる。こうされてしまえば、もう課題を続けることなんて出来ない。
不本意限りないが、もう今日はこの腕に身を委ねるしかないだろうと、リクオは身体の力を抜いた。
すると鴆が嬉しそうに笑った気配がして、腹立ちまぎれにリクオは恋人をにらみつけた。
「…ばか、スケベ、卑怯者、ろくでなし!」
「ひでぇな、お前」
リクの幾分本気が混じった悪態に、少しは反省でもしているのか、鴆は苦笑して肩を竦めるばかりだった。
リクオを見れば、カワイらしい唇を真一文字に引き結んでしまっている。
そんな顔はかわいいだけだ、という言葉は懸命にも飲み込んで、触れるだけの口づけを、一つ、ふたつ。
三つ目が降るころには結ばれた唇も綻んできたから、少し深く重ねて舌を絡めて。
解けてしまう前に、これだけはと唇に触れたまま、見詰め合って囁いた。
「…告白は顔を見て言いたいじゃねえか」
好きだぜ。
真剣な声。
ばか、と詰った声と首に回った細い腕が恋人の返事だった。
バカップルいずフォーエヴァー。
鴆がだんだんと恥かしい野朗になっていくのを止められません。
この恥かしさ、宇宙規模です。
お代はこちらよりお借りしました。
↓
配布元:TV
この記事にトラックバックする