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新盤日和見天体図

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ぬら孫でゆびのかずのお題2・⑤

守ってやる

脅威を打ち払い、ふたりの朝のこと。

「オラ!何今更隠そうとしてやがる!この俺の目を誤魔化せると思ってんのかぁ?!」
朝日と共に、恋人は姿を変える。
頼もしくも恐ろしい百鬼夜行を統べる怪しい姿から、あどけなささえ伺える稚いと言っても過言ではない姿に。
「ちょ…ッ!ちょっとまってよ、鴆くん、いた、いたた…ッ!!」
「うら!やっぱり怪我してんじゃねーか!ほらはやくしねぇか!」
ふたり、まだ肌を合わせたことはない。
リクオの恥じらいというか焦りも尤もなのだ。しかしこうれでいて鴆も相当の気力を消費している。
リクオは奴良組の正統な跡継ぎだ。その他大勢と同じに捉えてよいはずがない、というのが側近達の意見で鴆もそれに対しては異を唱えることもない。
よってリクオの治療は薬師一派の長である鴆が行う。その権利を鴆は他に譲る気はなかった。薬師一派としての矜持もあったが、その大方のところは愛しい恋人に自分以外のものが触れることが我慢ならないのだ。心が狭いと言いたければ言え。
惚れこんだ相手がいるのなら、見栄を張ることなど愚の骨頂である、とうのが鴆の持論だ。
命みじかき恋せよ乙女…ではないが、妖怪として異常に短い彼の命数がその決意に影響していないといえば嘘になる。
ともあれ、こういう理由で今現在鴆はリクオの治療を施そうとしているわけなのだが。
先にも述べたとおりに、ふたりはまだ体を重ねたことがない。ほんの少しのきっかけがあれば、ごく自然にそういった行為をすることは可能だったろうが、それよりも多大に途惑うことのほうが鴆には多かった。
その第一がリクオの外見の幼さだった。
人間は妖怪よりも短命なのに、成長するまでにそれなりに時間がかかる。その生の短さを思えば、驚くほどに。妖怪であるからほんの瞬きの間といえなくもないのだが、事情が事情だ。
元々鴆は気長なほうではない。しかしそんな鴆の短気を抑制するほどにリクオの身体は幼い。
とうの昔に元服を迎えた鴆を向かえるには、少しばかり成長が足りないと思う。
その威風に誤魔化されがちだが、夜のリクオだってまだ身体は出来上がっていない。
(それはそうだ、同じリクオなのだから)だから、鴆は実はリクオの肌を拝んだことは、ない。
しかし今回傷を負ったと思われるのは、彼の上半身。聞くところによると、戦闘の最中に配下の妖怪をその腕の中に庇ったらしい。
愛刀をかざす間もなかった、相手の得物はかろうじて側近の刃が防いだが無理な加勢では完全な防御はえられなかった。
勢いを殺しきることが叶わなかった刃は、リクオの肩口の肌に亀裂を入れた。
無論、その輩は既にこの世界から姿を消した。
「ったく!何のための薬師だと思ってやがる…!夜行にもそうそう同行できねぇんだからこれくらいさせろってんだ!」
「ごめんって…!でも…ッ!」
「でももだってもねえってんだろう!ほら…ッッ!!!」
心配半分、怒り四半分。後は照れやらなにやら入り混じり。勢いをつけなければ、自分の理性の脆さに負けてしまいそうだったので、殊更強引に(怪我人にするには酷な強さだったと思う)リクオの纏っていた着物を肩から引き下ろして。
息を、飲んだ。
「…だからちょっと待ってって言ったのにさ」
恋人の拗ねたような、諦めを多分に含んだ声がどこか遠くに聞こえる。しばしその声に反応できなくて無意味な時間がなg晴れた。永遠にも感じる数瞬が過ぎた後、鴆はようやく顔をあげた。
「…そんな顔をするから、見せたくなかったよ、鴆くんには」
どんな顔だ、とは声にならなかった。
そんなものリクオの今の困ったような哀しんでいるような顔を見れば良くわかる。
「こんなになってやがったのか」
やっと鴆の唇から漏れたのはそんな言葉。いいながらそっとリクオの白い肌に指先を伸ばす。
白く、まだ華奢な体躯。その胸元から腹にかけて袈裟懸けに走る刀傷。…これは牛鬼に切りつけられたものだろうか。
その舌。腹部には鋭利な刃物を真直ぐにつきたてたような幅の短い傷。
肩口に新しい切り傷。
「…ほかも見せてみろ」
「……。」
静かに、有無を言わせぬ口調で告げれば、リクオはゆっくりと着物を肩から落とした。隠すところのなくなった上半身を鴆は確かめる。正面から見える傷をすべて確認して、それから背面へ。
胸と同じように背面にも大きな傷が多い。
今回のような怪我は初めてではないのだろう。逃げたために負った傷ではないことは誰に聞かずともわかる。
「…ごめん」
リクオの小さな声が聴こえた。途端、怒りにも似た感情が溢れ出し、鴆は目の前の幼い体を引き倒して取り押さえた。
己の体躯の下に、あるじを閉じ込める。
「ごめんね鴆くん」
なにを。
何を謝るのだろう、この子供は。
「そんなに辛そうな顔をしないで。僕は平気だよ」
その言葉を鵜呑みに出来るわけがないのに。今の人の世で、これほどの傷を体に刻むことがどれほど異様なのかは流石に鴆でも理解できる。
昼のこの幼い子供は、その身に秘めた四半分以外はただひとだ。
「俺じゃねぇだろ、お前が」
「鴆くん」
そっと柔らかな指先が鴆の唇の動きを止める。言葉を禁じられて、それでもと見つめた瞳は朝の光に染められて蜂蜜のように柔らかく光る。甘く、鴆を赦している。
「僕は君の三代目だろう?」
今更、本当に今更リクオから奪ったものの大きさに慄く鴆に優しく彼は笑いかける。柔らかく鴆を撫でる。暖かく抱きしめる。悲しく囁く。
「悪いのは僕なんだから、そんなに悲しがらないで」
「馬鹿野朗…」
君が辛いと僕も辛いのに、でも嬉しいと思ってる、だから君は悲しがらないで。
「馬鹿野朗、そんな言葉で誤魔化されやしねえよ」
あんまり年上の男を侮るんじゃねぇ。
傷の理由は策略だなんて、そんな陳腐なもので片付く筈がない。
そんなものは鴆がリクオから奪ったものと等価になどなるはずがない。この小さな体に刻んだ傷の対価をどうあがなえばいいのか。
「辛いのはお前だろうが」
どの口が言う、と激しく自嘲しながらも口に出来たのはそれだけだった。こうなるのを望んだ張本人はほかでもない鴆だ。
いまさら、その傷を目の当たりにしてこれほど動揺する自分が情けなくて仕方がない。リクオが見せたがらなかったのもわかる。自分をこんな境遇に追い込んだ本人に後悔されては、彼の立つ瀬がない。
リクオの嘆きの行く場所がないのに。
「辛くなんてないよ。君を手に入れたから」
それだって。それだってそうしなければ鴆はリクオのものにならなかったからだ。今だから昼の彼も愛しいといえる。だがあのころ、三代目にならないと言ったリクオを、鴆は否定している。
「鴆くん、鴆。余計なことは考えるな」
頬を挟んだリクオの両手に逃れられないように固定されて、視線を絡められていた。幼げな顔は人間のそれなのに、鴆を絡める視線は百鬼を統べるそれになっている。
「守ってやるって言ったでしょう。君はそれだけ信じていればいい」
「リクオ」
「君は僕が守ってやるから」
「リクオ、だがよ…」
続きは言わせてもらえなかった。幼く不器用な唇が鴆のそれを塞いだからだ。
「君は僕だけを愛していればいいんだ」
君だけが叶えられる僕の望みだよ。
かなえて。
密やかに囁かれた言葉。
愛しいのだと、知った。愛しいから心がこれほどに軋むのだと。
愛したからこそ悔やむのだと、そんな鴆の厚顔も傲慢もたった一言で赦した恋人がただ、愛しい。
だから鴆も誓った。そのはかないからだ、強い心。四半分の血、残りの人の血。全てを愛して、そして。
「守ってやる」
二度と傷つけない。
それがふたり、初めて肌を重ねる始まりだった。赦されて、貪る肌の柔らかさに溺れる。
すがり付いてくる腕に、強く抱きしめて。唇に感じる柔な新しい皮膚を吸い上げ、ふさがらない傷口を舐める。
舌に感じる血の味。
人の血。
貫く瞬間、愛しいと囁いた声に、泣いた恋人の顔を鴆は生涯忘れないだろう。



守ってやるは原作ではリクオ→鴆の名言(笑)でしたが、ここらで一発鴆にも攻めとしての…甲斐性って奴を…ですね…(玉砕って言わないでわかってる!!)とりあえずお題シリーズはここで完了です。おつきあいありがとうございました!妙な短編ばかりでごめんなさいでした…(いや全く)

 

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