ブラッドレイ夫妻。
それはもう過去になったお話。
娘は、少しばかり出自の良いだけの女だった。
その出自が当時の自分には重要で、軍人の家に育った娘も、いずれ自分の婚姻が自分以外の意志に強制され利用されることを、幼いことより言い含められてきたのだろう。
拒否の言葉は無かった。
しかし埋め込まれたあの、ヒトと同じ温度を持つ石の効果か、人の機微を感じることの出来ない自分に、顔を真っ赤にながら頬を打ってきた。
自分にそのようなことをする人間は、この娘だけだったので婚姻を決めた。
告げれば、娘は大きな瞳を瞠って後微笑みながら諾と頷いた。
それにあまりに迷いが無かったから、くだらないことを聞きたくなった。
――私は、化け物であるがあなたはそれでよろしいか。
含めた意味を、娘は理解できるはずも無いだろう。最後に生み出されたホムンクルスである私は、人を素として生まれたところから他の『兄弟』達とは決定的に異なり、しかし同じように身の裡に娘のその華奢な体など簡単に飲み込んでしまう黒い汚泥が詰っている。
だが。
――あなたが、どんな化け物かは存じ上げませんが。
――わたくしは、女という魔物ですのよ。
とこの世の穢れを何も知らないという顔で告げる。
そうしてその白くはかない指先をそっと重ねながら笑うのだ。
その日から、娘は化け物の傍らにあり、そうしながらもけして枯れることも無く化け物と同じように歳を重ねている。
その事実に、いつかの言葉は真実だったのだなと笑えば、娘時代と変わらぬ笑みをあのころよりも皺を刻んだ頬に浮かべ、今は妻となった娘は、
――わたくしたちが似合いの夫婦ということなのでしょう。
そうささやきながら、指先を重ねるのだ。
寄り添うことを許しただけの存在。
それだけの。
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