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新盤日和見天体図

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春の悪戯

ロイは春が好きだ。
暖かくなって動きやすくなるし、景色だって鮮やかに色づく気がする。
町を行く人々の装いも軽やかになって、…まあ正直に言えば、ご婦人方の格好が。
男としてとても正直に、眼福なのだ。
ロイとしては真夏の露出ギリギリ、という格好よりも、ヒラヒラと風邪になびくスカートに色気を感じる。
よって春は彼にとってはとても良い季節、であったのだ。
そう、つい三年ほど前までは。

「―――っくしゅっ!」

聴こえた音に嘆息する。立ったそれだけの間にも、背後ではくしゅんくしゅんと盛大にくしゃみをしている。そのうち、ずずっと洟を啜る音と、ティッシュを取り出すかすかな音、それからちーん、と盛大に…盛大に洟をかむ、音。
全くもって色気の無いことこの上ない。
そう。色気がない、それは事実だ。
事実なのに。
「…ハボック。今年も、か」
「ことじも、って…ごれなおるようなもんじゃないって…っクシュっ!」
言い切らないうちにまたくしゃみ。ティッシュボックスに伸びるて。しゅしゅしゅっと音が…しない。
「うああああああ…ティッシュ切れた…」
「…無節操に使うからだ」
「づかわないとはなたれてしかたがないんすよう…」
そんなことはわかっている。わかっているがこの状況に、厭味の一つも言いたくなるのは仕方がないだろう。
と、ロイはデスクの引き出しの一番下から昨日買い求めたものを取り出した。
「…っ大佐、それ!」
「全く私の部下が鼻を真っ赤にしていては示しがつかんからな。施しだ」
「なんすかその言い方は…でもうれしーっすありがとうございます!」
にこ、と笑う気配。それまで実は巧みにハボックを直視しないようにしていたロイだったが、ついつい真直ぐにハボックを見つめ返してしまった。
「ぐっ…!」
結果、おかしな感じに息をつめるはめに陥った。
「!?だいざっ?どしたん」
「お、お前、洟が垂れてるぞ!情けない!」
「うお!?まじっすが!」
うわちょっとまって、といそいそと受け取ったばかりのティッシュを引き出すとちーんと洟をかむハボック。
その未知の柔らかさに、おお!と人知れず感動している彼からその隙に必死にロイは目を逸らした。
…はっきりいって目の毒、なのだ。
避けられない症状の結果で、本人は辛いなんて文じゃないのもわかっているし、可哀相だとも思う。思うが、あの晴れた蒼の瞳が薄らと水膜を張って、白い頬はほんのりと染まっている。
…それがどんな想像に繋がるかは、ロイとて日一人の健康的な成人男子であることを鑑みてほしい。決してロイを責められるものではない。
ハボックは、つい三年前に初めて花粉症を発生した。まあそこのところも原理は割愛するとして…そこからロイのこの季節における、受難は始まったのだ。
さらにはこの季節現場に出してもろくに作業が出来ないハボックは、花粉が落ち着く時期がくるまでは、執務の分担内容をブレダ少尉と交換している。つまりは机上の仕事になる。部下も自然に書類仕事をすることになるのだが…一応、逆分野の仕事にもなれなければならない、ということでお互い納得はしているらしい。
…そんなわけなのだが、やはり室内にいてもくしゃみはでるわ、涙は出るわ、洟水は以下略。大部屋にいたのではとても他のものが集中できない、と言ったのはホークアイだ。
そうしてハボックはロイの執務室にほおりこまれることになった。
…もちろん、ロイは表向きはどうあれ本心では非常に喜んだ。なにせそのころハボックとロイは恋人同士になったばかりだったので、この偶然をハボックには悪いと思いながらも喜んだ…最初の数日は。

…あとはまあお察しの通りで、予想外に色気ただ漏れとなる恋人の姿に、ロイは日々忍耐を強いられている。強行軍に出たためしがないわけでは、ない。しかしすぐにあのくしゃみ鼻水涙、それらの症状に苦しむハボックに対し、そんな気はすぐに消えていった。
しかしハボックの色気は消えるわけではない。
今となってはホークアイがハボックを自分の下にほおり込んだのは、この事実を知っていて、ハボックの貞操を不逞なやからから守ろうとしたのかも知れない。
いや十中八九そうだろう。
ロイは恋人をとても愛しているしハボックもそうだと知っているが、世の中そんなものばかりではない。ムードがなかろうがなんだろうか、花粉さまに弄ばれているハボックをさらに弄ぼうとてぐすね引いているわけなのだ。
そんな輩から身を守るためには。
…ロイの元が一番安全である。逆に言えば、ロイの元が一番危険ともいえるが、そこはそれ。恋人に実はベタ甘なロイの性格を、ホークアイが知らないはずがなく。
かくてロイははやくこの麗らかな季節が過ぎてゆくのを待つのみ。
「大佐?」
は、とロイの意識が戻る。気づけば目の前に、ハボックのうるんだ瞳があって、じいっとこちらを心配そうに見つめている。
…きれいだ、となんのてらいもなく思っていたら。
「…っ!ハボっ」
ちゅ、と小鳥のようなキスを贈られた。
なにを、と反射的に顔をあげる。しっかり目があって…瞳の奥には、見知った欲情の色。
「…あんまりそんな目で見ないで?俺だっていろいろ大変なんだから…」
「なに?」
「俺だって、したいってこ…っ」
くしゅん。
見つめあう。
短い時間だったとは思うが、そんな短い時間でも目を合わせていれば、仕方がないな、と納得できるくらいには二人は大人だった、ので。
「…早く、夏になるといいな」
「…暑いの苦手なくせに」
「お前に触れられないよりはいい」
潤んだ青い瞳が瞠られる。
私をあまくみないように。焔の錬金術師で、階級は大佐。それから。
「お前の恋人、だからな」
はやく、お前を感じさせてほしい。

言外の願いを正しく理解したのだろう。
ハボックはイエスサーとおどけてロイの要請をうけいれ、再度くちづけようとして――…。

っくしゅん!

ロイの受難は、まだまだ続くようだ。

春?スキップで過ぎ去ってほしいものだよ、とは焔の錬金術師が何処かでにがにがしく語った言葉であった。

―――くしゅん。


<了>




コメントでこれはハボロイじゃなくてロイハボでしょうよ!?とお言葉いただいたいわくつきのこねたでした。しかし私はハボロイと言い張ります。
こねたログその2。
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