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新盤日和見天体図

立派な貴腐人になりました。よろずにまったり展開中。

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悲劇の起きる条件

昨日は東の町で子供が攫われて川に捨てられていた。
一昨日は西の村で幸せな親子が泥酔した男が運転する車に轢き殺された。
先一昨日は南の森で、若い娘が嬲られたうえに絞め殺されていた。
今日は北の教会で乱射事件が起きた。

かすかに残る火薬と血と汚物の臭気。
嗅ぎなれた匂い。
それから聞きなれた悲鳴。
かろうじて助かったのだろう、満身創痍の態で出血もひどい。
しかしその痛みを彼女は感じていないかのごとく、一点に視線を集中させて叫んでいる。その視線の先、通路を挟んだ向かいのベンチは真っ赤な鮮血に染まっている。
ここから見えるのは、ぐったりと後方にそらされる頭部。元はくすんだ金色だったろう髪が酸化したどす黒い赤に染まっていた。
ひたすらに彼女が叫ぶ名はふたり分。きっとこの人物ともう1人ここからは見えない誰かの名。それは想像するに易い、彼女の夫と子供だろう。
彼女が叫ぶ言葉が誰かの名前から『どうして』という疑問に変わっていった。
『どうしてこの子がこんなめに』『どうして貴方がこんな目に』『どうして私がこんな目に』『いつもかみさまに祈っていたのに』『何も悪いことなんてしていないのに』
『ひどい』『ひどいひどいひどいひどいひどいひどいひどい』
『どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして』

教会を銃撃したのは、どこにでもいるような青年だった。
テロリストでもなく、犯罪者でもなく、不幸だったわけでもなく。
打ちつくした拳銃を手に、取り押さえられた青年は駆けつけた憲兵が叫んだ、『何故』の言葉にたった一言応えた。

『日曜が嫌いだから』

紅く染まった礼拝堂の中に響き渡る声は、狂女の歌声のようにロイには聴こえた。
『どうして』と叫ぶ彼女に渡す答えを一つだけロイは持っている。
この答を渡したら、彼女は泣き止んでくれるだろうかと考えて、緩くかぶりを振った。
きっと更に彼女は絶望するだろう。これ以上はない、と思う悲劇は実は簡単に上塗りされていくものだ。
だからロイはその一言を胸にしまって静かに踵を返し、囁いた。

『人間である、それだけで充分だ』

小さな声は、狂女の歌声にかき消された。

悲劇が起きる条件

そうでしょう?悲劇なんて人のためにしか存在しないのだから。



日記でお題消化企画でした。
これはある歌を下敷きにしてまして、その歌もある事件を下敷きに生まれてます。元は日曜ではなく、月曜日ですけれど。
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