「アル、寝るぞ!」
「うん。って兄さん本当にベッドで寝なくていいの?僕は気になんて」
「うるせ、俺と寝るのがそんなに嫌なのかお前は」
「じゃなくて、こんな床に寝るくらいだったら宿に入った意味が無いじゃんか。兄さんだけでもゆっくり休みなよ。兄さんは僕と違って生身なんだから」
「アル」
名前を呼ばれて、あ、しまったと思った。
やっぱ兄さんは難しい顔をして僕を見ている。この件に関しては本当に彼は神経質だ。
当事者である僕よりももっと。この後の言葉も想像がつく。
「お前は。お前だアル」
「お前は俺の弟なんだから」
「床になんて寝てたら辛い。俺は弟にそんな想いをさせる兄貴じゃねえ」
思っていたのと変わらない声が聴こえてくる。
「うん」
じっと恐い眼で見つめてくる兄さんに頷いて応えると、満足そうに笑った。
そのまま身を横たえる。宿のヒトには申し訳ないけれど、毛布は床にひかせてもらった。
「じゃあな、お休みアル。」
兄さんの呟きと共に、ランプの炎が吹き消される。
もぐりこんできた兄さんに体を寄せると、何も言わずに僕の懐に小さな身体が収まる。
そこからは響いたのは呼吸の音だけ。途中から少し間伸びた感じになったからもう兄さんは眠ったんだろう。
「アルフォンス…アル、」
「うん、何」
眠っている兄さんの声に返事をする。慌てることは無い。何時ものことだから。
覗きこんだ兄さんに顔が、悲哀に歪んでいる。ああ…苦しいんだね、兄さん。
「ごめん、アルフォンスごめん」
とじた瞼から涙が零れた。それを、金属の指でふき取る。口元に持って言ったけれど、味を確かめる術は僕には無かった。
次々に零れる涙、繰り返される名前。
「兄さん、僕は大丈夫だから」
止め処なく流れる涙は、昼間の彼とは思えない。
見回す室内は暗く兄さんの呼吸の音しか聴こえない。
それは鎧の体になる前には見たことのない兄の様子だった。仲の良い兄弟と思っていたが、それでもやはり僕は兄さんに守られていた。
だから、というのもおかしなことだけれど。
兄さん。僕はこうなっていて…こんな体でよかったと思う。
だって今の体なら、一晩中貴方のことを見ていられる。
「ごめんね兄さん」
ほかの人に譲るつもりもない。
「ごめん」
貴方が苦しんでも、それすら見つめていたいと思う。
ねむりはいらない
だからかなしまないでなんていえないでいる。
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