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新盤日和見天体図

立派な貴腐人になりました。よろずにまったり展開中。

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BOOKS FA ハボロイ

基本的に全てR18 指定になっております。18歳以下(高校生含む)の方はご購入いただけませんのでご了承ください。
LOVE ACTUALLY R18
P224/新書/フルカラーカバー付/\1700/1.5cm/

こちらは他の本と同送することが出来ません。お申し込みになる際は送料160円で計算してください(A52cmまでの計算)

掲載内容
HONEY COME!!
ピジョンブラッド
月光蝶
SPRING HAS COME!
LOVE SEASON LOVERS
恋嵐
君が望むならあの夜の星さえも
KISS MACHINE GUNS
多極的幸福論
マスタング100式
WEB SS【甘えて5題】
貴人の恋(書き下ろし)    以上12本。編集ミスでマスタング100式のタイトルが表紙から抜けておりますが、収録しています。

お買い求めの方は上記掲載物をご参照の上、ご考慮下さい。誤字脱字の訂正はしておりますが、改稿は殆ど致しておりません。


天涯の花/ハボロイ(ロイ先天性女体)
R18
/P64/¥600/3mm/
冬コミ発行のコピー本の完全完成版(冬コミコピーは前編のみでした。)
ハボックが護衛官となって二年、周囲の噂はあっても二人はけして上官と部下の一線を越えようとしない。
しかし実はふたりは幼いころ恋人同士だった。
ハボ×女ロイなシリアス。それなりにR描写がありますので、18歳以下の方のご購入はお控え下さい。

彼は魔女の息子
R18
A5/P76/¥700/5mm/以前発行した同名のコピー本の再録+続編書き下ろしです。
ハボロイ義兄弟設定で、ハボック父とかマスタング母など好き勝手に
捏造しております

私とワルツを 先天性女体
R-18
A5/P36/3mm/¥400
ハボロイ子(先天性女ロイ)シリアスストーリー(前編)。
ヒューズに叶わ想いを抱き続けるロイと
それを分かっていて一途にロイを想うハボック。
報われない想いを抱えたまま体だけを繋げるけれど…
というお話の冒頭部分になりました

ガーネットクロウ
R-15
A5/P56/4mm/¥600
士官学校生ハボックと中佐ロイの馴れ初め。流血描写ありです、注意。
在庫が発掘されました。このお話の番外が再録本の中に入っています。

わんこ少尉。Relax
R-15
A5/P56/4mm/¥600
わんこ耳+尻尾ハボック本第三弾。
あいも変わらずご主人様に頭のてっぺんから
つま先まであますところなく愛でられている
わんこ少尉のお話です。今回いつもにまして
ハボックが受けくさいですが、ハボロイです…!
ゲスト様2名

わんこ少尉。00
R18
A5/P68/5mm/¥700
わんこ耳ハボック少尉本第二弾。
今回は小説オンリーでわんこ少尉がわんこ准尉だったころの、マスタング中佐との馴れ初め編です。ブレダさんでばってます。

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通販可能物

  • FA・ハボロイ


  • ぬら孫・鴆昼若


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    メールでお問い合わせ下さい。
    azcapera☆clovernet.ne.jp(←☆を@に変換してください)
    よろしくお願い致します。

    聖骸:(未来死ネタ注意)

    このお話は捏造過多の未来死ネタになります。
    そういったお話が苦手な方はお戻りくださいませ。
    大丈夫だよとおっしゃる方はどうぞ。













    誰も、気がつかなかったと誰かが言った。


    しめやかに雨が。

    古式ゆかしい日本家屋。
    千畳敷、とまではいかないが十二分に広い座敷にひしめく者たち。
    そのほとんどが異形。
    しかし少しだけ混じる人型。それでも形だけは人型のものがほとんど。
    すこうしだけ、本当の人が混じる。そのほんの少しの人の子は、触れれば切れそうな気を発している。
    許さない、赦さない、ユルサナイ、ゆるさない!
    人の子は全身でそう叫びつつ、黒装束に身を包んでいる。
    室内は抹香くさい。こんなもの、あの陽だまりのような存在に似合うはずが無い。
    しつらえられた祭壇の、そば近くでうなだれているのは彼の親族。
    母親は、この現実にすっかりうちひしがれている。まだ不惑を五年ほど過ぎたばかりのはずだったが、すでにその気は枯れ果ててしまいそうだった。当たり前だ、彼女は愛しいものを理不尽にふたりも失った。

    そうだ、理不尽に過ぎる。

    長く伸びた黒髪を揺らし、きり、と唇をゆらは噛み締めた。
    読経が耳につく。
    その人を悼んで泣く声が腹立たしい。
    いまこの場にその涙を流すにふさわしい者など、ほんの一握りしかいない。今こうなって泣くなんて。なんて身勝手。

    「…だから妖怪なんて嫌いなんや」
    ぽろ、とこぼれた呟きは悲しみに包まれた空間にいやに響いた。
    ぴしりと空気が割れた。ぶわりと、妖気が膨れ上がりそれはゆらに突き刺さった。
    だが今のゆらにはそれはさほどの意味は持たない。
    今の彼女を揺らすほどの気を持つ妖怪はそうはいない。伊達に陰陽師の頭領をはってはいない。
    周囲の妖もそれをわかっているのだろう。怒りに満ちた気を向けるくせ、誰もそれ以上の動きを見せない。
    「ほんまに、あんたら最悪や」
    知ってたけど。
    言いながらゆらは式神を呼び出した。そして立ち上がると歩を進めた。
    周囲の妖怪たちの悲鳴は聞く気もなかった。まっすぐ、眼に痛いほど白い棺に向かって歩を進める。
    ここまで来て流石に幹部格の妖怪達が立ち上がってゆらを囲んだ。
    「なにをなさる」
    「なにをって。あんたらにこのままリクオの躯、渡したないの」
    「馬鹿なことを」
    牛鬼が怒りを孕んだ顔でゆらをにらみつけてくる。しかしその顔も、眼に見えて憔悴しているとなれば、ゆらはただ口元をゆがめて嘲笑するばかりだ。
    「馬鹿なこと?あんたらのやることのほうがよっぽど馬鹿やと思うけど」
    ぱり、とゆらの周囲の空気が尖った。
    もう我慢も限界なのだと、語らずとも知れる。
    ふわりとゆらは笑った。初めて彼とであったころはまだ子供だった彼女も成長し、牡丹のごとくとその美貌を讃えられる。
    その顔が酷薄に歪む様はそれ自体が一種の毒のようなものだった。

    この毒が、この場にいるすべての妖を殺してしまえばいいのに。

    そう思いながらゆらは、声音だけはひどくやさしく囁いた。

    「あんたらがリクオを殺したのに。なんでいまさらこんな風に嘆くん?」
    この声よ、毒となれ。
    「あの子は人間やったわ。あんたらのお仲間でもあったけど、人間やったの」
    この言葉よ、刃になれ。
    「あんたらみんなして、よってたかって人間だったあの子のこと忘れて否定した」
    この悲しみよ、雷となれ。
    「人間だったあのことのこと、当の昔に殺しておいて」
    この怒りよ、焔となって。
    「そうやってあの子の命を削っておいて」
    彼を苦しめたもの全てこの世界から消し去ってしまいたい。
    「なんでいまさら?あの子が動かなくなったからって泣くん?」
    赦さない、その言葉ばかりが渦巻いて馬鹿みたいに体が熱かった。
    「陰陽師どの」
    「あんたらに、苦しむ権利も悲しむ権利もないんよ。そんな傲慢なこと誰が赦しても…あの子のお母はんがゆるさはっても、私はゆるさへん」
    視界が歪んでいる。思考は恐ろしいほど冷たく澄んでいるのに反してぼたぼたと、熱い何かが両目からこぼれる。
    邪魔やわ、こんなん、といくら罵っても止まらなかった。
    泣いているのだ、と解って止められるものなら誰も慟哭することなど無いのだ。
    それでもゆらは泣くな、と己に命じた。
    「…それでもあんたら、恥知らずに悲しむゆうなら。ねえ、返して」
    泣いては、いけない。きっと。
    バリバリと空気を鳴らすゆらの式神たちはすでに力弱い妖怪たちをいくらか傷つけていた。やめて、やめて、とか細い悲鳴はどこか彼の声に似ていて、ああ、彼の母親が叫んでいるのだとゆらは認識した。けれどだからといって止められないとゆらは思った。
    堪忍、とこころのなかでずいぶんと儚くなってしまった彼の母親に頭を下げる。それからもう一人。大きな眼をした面影に堪忍な、と囁いた。
    たぶん、あんたはこんなこと欠片も望んでないやろうけど。
    でも私は、どうしても。
    「あの子、返して。人間だったあの子をここに」
    それはゆらの心からの願いだった。しかしけしてかなえられないものだと、彼女とて解っている。案の定、周囲は簡単に凍りついた。
    わ、と号泣が聞こえる。ああ、ほんとうに堪忍な。
    でも、もう我慢ができない。
    今まで無理な我慢を続けてきたのだ。彼がそうしろと笑って言うから。それはけしてゆらの望みではなかったというのに。
    彼がそう望んだから。
    「できへんの?ねえできへんのしょう?」
    ぼろぼろと涙がこぼれる。ああ、泣くな、とゆらは言い聞かせる。泣いたらあかん、私にも泣く権利なんて本当はないのよ。
    だってこうなるってわかってて、あの子のわがまま聞き続けた。
    でも、だから。今度は私の我侭を貫きとおしたい。
    「できへんのやったら…ねぇ。あの子の躯、うちらに頂戴」
    言葉と同時、ゆらりと差し伸べた指先に従い式神たちが踊り出した。

    「仏舎利よりも大事にするわ」

    きっと何よりも尊く。

    夢でもあえたら(拍手SS)

    夢でもあえたら

    神様が夢の中に出てきて、明日一日だけなにか願いをかなえてくれるって言うからさ。
    きいたんです明日一日だけかって。そうしたら神妙な顔をして神様は言ったんですよ。
    過ぎたるは及ばざるがごとし、己の手で勝ち取った以外の奇跡というものはいつか己に跳ね返る。
    だから頑張るお前さんにご褒美でも、一日以上の効力は約束してはやれないんだ、と。

    夢なのに神様なのに妙に感心した。なんでもかんでも信じてれば、願えば叶うっていう神様はちょっと信じられない。
    だからね、俺はこれだけ願ったんですよ。

    『脚が動かないのを直してくれとは言いませんが、せめて一日でいい。この冷たい両脚を本当に温めてくれる存在をどうか明日一日だけでも』って。うん俺って控え目だ。

    「それで私がこんな目にあっている訳か」
    神様とやらは頭の螺子が1本飛んでいるようだな。

    東部の田舎、この村でたったひとつのハボック雑貨店に最近国軍を退役してきた長男が戻ってきた。両脚が不自由になっていたが、小さいころから全く変わっていない。懐かしい。
    そういって訪れる客はだいぶ落ち着いたけれど、それでもハボックは器用に車椅子を操って対応している。だがやがて客足が途切れると、ハボックはにっこり笑って振り返る。
    すると、いつの間にかレジを置いてあるテーブルに、しなやかな黒い猫が、ちょこんとすわっている。細いりぼんにとおした小さな鈴がちりんと鳴る。
    ハボックの笑みは深くなった。

    「大佐、こっちに来て膝温めてくださいよ」
    「……上官をこき使うとは」
    驚いたことに猫の口から、凛々しい声が零れた。非常にシュールであるがハボックは全く気にした様子もなく、ぽんぽんと膝を叩いている。しばらく黒猫はじっとその様子を見ていたが、やがて我慢の限界が来たのか。
    「し…仕方がないな!」
    と照れ隠しのように叫ぶと、ひょい、とハボックの膝に乗った。

    暖かい。膝にはひざ掛けとしてごく小さな毛布がある。それにハボックの体温が渡ってとても心地よかった。
    猫…いや、ロイ・マスタングはくるんと丸くなって欠伸を零した。
    「寝ていい、ですよ」
    「…どうしてこう猫の身体、というのは眠いのか…せっか、く…久しぶりに会えた、という…のに」
    語尾はひどく掠れていた。ハボックは途切れた音を惜しんで何分かは動かずに固まっていた。
    膝の上の黒猫は、ゆっくりと腹を上下させて寝ている。
    猫になった彼は、綺麗な体毛と尻尾を逆立ててどうしてかハボックの自宅の玄関前にいて。ハボックを見上げるとすぐさまに『私だ!』と叫んだ。
    案外こういった不思議をすんなりと受け入れるタイプであったハボックは夕べのおかしな夢の話は本当だったのか、という気持ちだった。だからその根拠を、と問われすべてをロイに告げた。
    ポカンとした顔はすぐにその後引き締められ(猫の表情なんてわからないのに、確かにそんな気がした)では今日一日はずっといられるな、と笑った(ようだった)。
    「いちにちが終りますね、大佐」
    楽しかった。この動かない膝に彼の体温を感じていると懐かしくて幸せでたまらなかった。
    小さな頭についた耳を撫でてやる。心地良さそうにしている彼は、不思議にハボック雑貨店に馴染んだけれどそれが限界だった。
    「ありがとう大佐、さあそろそろ時間だよ」
    膝の上の、温かなそれに声をかけて促す。
    もぞ、と動いたからだが段々と大きくなって、ほぼ人の姿に変わったのは瞬きの瞬間の間に。完全に元に戻った…と思いきや、ロイの頭に、黒い耳、と見れば長い尻尾まで。
    『サービスじゃ』
    そんな声が聴こえたような気がする。
    なんだよ神様ってのは結構下世話だ、とか思っていると膝のうえにのっかっていた真っ黒い髪の毛の間の耳がヒョコ、とうごいた。
    (あ、かわいい)
    そう思ってカリカリと、近所の猫にしてやるみたいに耳を掻いてやれば案の定気持ち良さそうに表情を崩す。
    もっとそんな顔見ていたかったけど時間みたいだ。彼の身体はすうう、と透き通っていく。
    かれが帰っていくのかな、それとも俺の夢が醒めるのかな、どっちでもいいや、幸せだったし。
    そっと身をかがめて、なめらかな耳にキス。人間の耳にも同じように。
    「元気で、いてくださいよ」
    無理しないでとは言わない。でもお願いですから、生きていて。
    「あいして、ます」
    絞るみたいに言葉にしたら、ぱちりと瞳が開いた。真っ黒い目。ひどいな狸寝入り?
    瞬時に状況を把握したらしい大佐は、ば、と俺を見上げた。
    そして下から伸び上がるみたいに顎先(髭が痛いって)こめかみ、そして唇に。
    最後に俺をみてにっこり笑った。
    「にゃあん」
    ちょっと、愛してるって言ってくれないのかよ!

    じりじりじりりん、と電話のベルで意識が覚醒した。なんともヘンテコな。因みにやはり俺の夢でしたか、そうでしたか。
    ああ、でもいい夢だった幸せになるって信じられる。
    さあ、けたたましく主張している受話器を黙らせようか、と膝からどかした毛布。
    「!!!」
    ちりりん、と音をたてて落ちた、細い紅いりぼんにとおした鈴。
    じゃあこれは、と考える間にも電話は早くしろと急き立てるので仕方がなく受話器を上げた。
    「はいハボック雑貨…大佐!?」
    「言い忘れた。愛してるよ」
    簡潔に言葉はそれだけ。

    回線はそれで切れた。ええと他に言うことはないんかな、一応恋人なのに。
    全く本とうにあの人は、仕方がないんだから!
    「愛してますよ、こころから」
    ささやきながら小さな鈴に口づけた。

    それから、忘れずに。

    神様ありがとう。



    8/14 夏コミ

    ひょうし

    8/14 金曜日 東5ホール プ48a カペラ
    *諸事情により、遠野は直参しておりません。友人が売り子として管理してくださっています。

    新刊 
    【無限回廊】ぬらりひょんの孫/鴆×昼若再録 P68/¥600/R18 
    WEB掲載小話+【チョコレート誘拐事件】(コピー誌)+書き下ろし(16P)
    書き下ろしはコピー誌チョコレート誘拐事件の後日譚になります。R18ですので、ご注意ください。


    既刊
    ぬらりひょんの孫
    【金枝玉葉】鴆×昼若R18 P36/¥400
    鴆昼若シリアス中篇です。鴆がへたれていないです(笑)
    【偽装愛姫】鴆×昼若R18 P100/¥1000
    鴆昼若シリアス長編。望まない縁談を迫られる鴆。それを阻止するためにリクオがとった手段は…
    物語の都合上少しだけオリキャラがいますのでご了承ください。
    黒子のバスケ
    【メロウ】黄笠+高緑 P16/¥100
    黒子のバスケコピー本。黄笠、高緑共に各一本ずつ短編を収録してます。
    黄笠は可愛く、高緑は薄暗くです。

    *既刊はすべて残部少になっております。なお単品での再販予定はございません。
    孫本に関しましては【偽装愛姫】のみ、CQ―webにて取り扱っていただいてます。(こちらも残部が10前後です…)

    諸事情により、単品での再販は現在は考えておりません(偽装愛姫はページ数も多いので)
    もしかしたら冬に再録として出すかもしれませんが、確定ではございませんのでその旨ご了承くださいませ(平伏)



    偽装愛姫

    01/P18~P22


     この座敷に入った折に、酒と肴を運んできたきりで全く姿を見せなかった良太猫の声が、障子の向こうから聴こえる。
    「…おう、良太猫か。どうした」
    「お連れ様がおいでになりましたが…お通ししても?」
    「…連れ、」
     間の悪いことだと、心の中で良太猫を詰っていた鴆だが彼の言葉に首を傾げる。
     連れ、といわれればこの席を用意した張本人のリクオのことかと思うが、それにしては良太猫の取次ぎもおかしい。
     もしリクオであれば、良太猫はそう鴆に告げるだろう。お通ししても、などという伺いすら立てない。なぜなら鴆の抗いがたいあるじがリクオであるように、良太猫のあるじもリクオである。
     最も優先されるのはリクオの言葉。(勿論それが良太猫の矜持である、商売の倫理を穢さないものである限りだが、リクオがそれほど愚かな言葉を発することなどあるわけもなく、よってその線はまず消える)鴆や、その連れに伺いを立てることなどなく、リクオであれば既にこの場に通されているだろう。
     つまり良太猫がこのように鴆に伺いを立てに来た、ということは連れだと名乗る者が良太猫が門前払いを食らわすことのできないほどの人物で、しかしこのまま通すことも憚られる相手、ということになる。
     第一鴆はこの席に他に連れがやってくるなど、一言も告げてはいないのだ。
    「良太猫。いいからそこを通してくれ」
    「猩影様!困ります、お待ち下さいと申し上げたはずですよ!」
    (猩影だと?)
     慌てた良太猫の呼んだ名前に、彼がこうして伺いをたててきた理由は解明した。猩影は父親である狒々の後を継ぎ、いまや立派な奴良組の幹部の一人になっている。けしておろそかにしてよい相手ではなかった。
     立場的にも鴆と同列であり、良太猫もどうしたらよいのか、と悩んだ結果、奴良組の幹部としてではなく、この化け猫組の頭目として判断した結果だろう。
     しかし当の猩影は待ちきれなかった様子で、座敷の前にまで既にやってきた様子である。鴆がちらりと振り返ってみれば、つれである縁者の男はどうしたことか、と目を白黒させている。
    (…リクオが噛んでやがる筈だ)
     それだけは確実だった。ならば、まずは彼と話さなければ何も始まらないだろうと、鴆は判断する。
    「いい、良太猫。通してくれ」
    「ですが、鴆様!おいでになっておられるのは猩影さまだけではないんですよっ!」
    「なに、」
     それは、どういうことだと良太猫に問いただす間も鴆には与えられなかった。
    「あっ猩影さま、もう少しおまちください…っ」
    「鴆殿の許可はでただろう?俺は妹をこれ以上衆目に晒すつもりはないんだ、すまないけど」
     障子の向こう側で、僅かにもみ合うような気配がする。良太猫も突然の展開に慌てながらそれでも対応しようとしているのだろう。しかし猩影は止まるつもりはないようだ。
     ならばあの体格差だ、良太猫の力では万が一にも猩影をその場にとどめることは出来ないだろう。
    (妹、とか言ってなかったか?)
     不審に鴆は眉を寄せた。猩影に妹がいるなどと聞いたことはなかった。もちろん狒々は大妖怪であったので妾の一人やふたりいてもおかしくはないだろうが、子となると話は別だ。
     よしんば妹がいたとしてもこの場に連れてくるなんてどう考えてもありえない。流石の鴆も混乱してきた。
    「猩影様…っ、お待ち下さいって!」
    「いいから。ここを開けてくれ、良太猫」
     障子の外では、立ち上がった良太猫が猩影の前に立ちふさがっている。体格の大きな猩影にすればそんなもの壁にもならないところだが、無理やり押しのけるつもりも今は無い様子で、言葉でのみの応酬をしているようだった。
    「ぜ、鴆どの、これは…?」
     予想もしていない展開に、縁者の男もおろおろと視線を彷徨わせている。
     どういうことなのでしょう、と聞かれてもそんなもの鴆にだってわからない。けれど、いつまでもこうしていても仕方が無い、と覚悟を決めて口を開こうとしたその時。
    「…鴆さま、ここを開けてくださいまし…」
    「!!!」
     鈴のような、と表現するのが最も相応しい可憐な声がした。
     その声が届いた瞬間、鴆は素早く立ち上がり、どうなさいました、と泡をくったような縁者の声も無視して荒々しい仕種で障子を開けはなった。
    「鴆様…っもうしわけありませんっ!」
    「すんません鴆殿。これがどうしても、と聞かないものだから…けれどこいつの気持ちわかってやってくれませんか」
    「ぜ、鴆どの…!それに猩影殿!?これは一体全体どういうことなのですか…っ!」
     良太猫、猩影、縁者の男。それぞれの声はたしかに鴆に届いていたがそれだけだった。
     障子を開け放ったその瞬間から、鴆の視線は猩影の片腕にちょこんと幼子のように抱かれている生き物に釘つけになっていた。
    「…ほら、陸奥(むつ)、鴆殿が出てきてくださったぞ…?」
     猩影とはそれなりに親交がある鴆と良太猫だったが、こんなに柔らかな彼の声を聴いたのは初めてで、少なからず驚くが、それも当然かとその場のだれもが思った。
    「申しわけありません、鴆さま、良太猫さま…。猩影兄様を責めないでくださいまし…兄様はわたくしの我侭を聞いてくださっただけなの」
     羽で撫でられるような声だった。音階は思ったよりも低いだろう。けれど、その柔らかな語調がそう感じさせない。
    「鴆さま…わたし、どうしても我慢が出来ませんでした。おゆるしください…」
     まっすぐにその栗色の瞳を鴆に当てて、猩影に抱きかかえられたままでその生き物は語りかける。
     奴良組幹部である鴆の前で、無作法この上ないところだったが、誰も咎めることが出来なかった。
     さらりと柔らかそうな髪を揺らして、その生き物は鴆に向かって頭を下げた。短めに切りそろえられた髪は良く似合っている。長く伸ばしてもきっと可憐だろうと、良太猫はふわりと揺れるそれを見守りながら思った。
    (あ、猩影さまと同じさし色)
     そうしてじっと見つめると、あまり目立ちはしないが栗色のそれの中に、いくらか色味が顕著に異なる部分がある。それは明らかに、その妹だという人物を片腕に抱えている猩影と同じ色をしていた。
    (あまり似てはいらっしゃらないようだけど…この様子では本当に妹御でいらっしゃるのか)
     そんな場合ではないと思いながらも、良太猫は再度まじまじと猩影の腕の中の人物を見つめる。体格の良い猩影に抱えられているからだろうか、その体の華奢さが目立つ。腕なんて良太猫の片手でつかんでもだいぶ余るだろう。
     首も細い。身につけている着物は見事な仕立ての振袖。薄い桃色が、裾に向かうにつれて、朝もやの青が混じった複雑な濃い桃色に染まっている。これを着こなすのは難しいだろう、着るものを選ぶ色だと簡単にわかる。
     柄は、桜が肩から裾に行くにつれて広がっていて、長い冬を越えた蕾が咲き初める様を見ているような気分になる。
    そんな桜の中を、金を基調にした帯に銀糸で縫いとめられた美しい姿の鷺だろうか、大きな鳥が舞っている。使い古されたようで、斬新な柄だ。
    こういった色町には少し不似合いだったが、まさに令嬢と言った風情の彼女にはこれ以上なく似合っている着物だった。
     まさに帯も生地もはじめから彼女のためだけに誂えられたかのよう。しっくりと馴染んだ様は、何も知らない良太猫にすらそう思わせるのに充分だった。
    「馬鹿な娘とお思いでしょう…ですが鴆さま」
     震える声。
     一端目を伏せ言葉を切ると、彼女は自分を抱える猩影に向き直る。
     おろしてくださいまし、兄様。
     小さな声でそう乞う彼女の願いに猩影は一瞬戸惑ったようだったが、すぐに彼女の願いは叶えられ、とん、と軽やかに娘の体が良く磨かれた板ばりの廊下の上に下ろされた。
     ちりん、と鳴った音は、娘の帯締めに飾りとしてつけられている銀鈴のもの。短い髪がさらりと揺れて、猩影に抱えられているときは視線があまりに高かったので気がつかなかった髪飾りが見える。
    それは大きな牡丹を象っているもので、組紐と真珠の玉がキラキラと光を反射する。けして華美になることなく、彼女にこれもしっくりと納まっている。
    (牡丹の花言葉は…高貴、壮麗、恥じらい…これはまた)
     なんとも、と良太猫は秘かに笑う。猩影の腕から降り立った彼女は長身の兄とは違い、小柄な性質であるらしい。
     ほっそりとした肢体は風にも折れてしまいそうなほどなのに、キラキラと光る瞳がけして脆弱な印象を与えない。
     たおやかでしなやか。花のような、というのは彼女のためにある言葉ではなかろうか、とまで思わせる少女だった。
    「…おまえ、」
    (おまえ、って鴆さま…っ!)
     鴆の口から漏れた言葉に、良太猫は驚愕した。いくら鴆とはいえ、見るからに深窓の姫君、といった風情の娘をお前呼ばわりは無いだろう。それも幼い子供時分であるならともかく、少々幼い気はするが、彼女も妖怪で言うところの成人はむかえていると思われる。
     そんな彼女に対し、お前、などといえばそれは邪推をしろ、と言っているようなもので、事実鴆と共に座敷にいた男などは、はっきりと狼狽している様子だった。
     しかし鴆はそんな男に頓着する様子はなかった。
     いや、むしろそういうならばその場の彼女以外の者は彼の眼中にはないだろう。
     傍から見ている良太猫のほうが慌ててしまうほど、彼女が現れてからの鴆の意識は彼女にだけ向かっていた。
    (まさか、まさか、まさかこれ誤解じゃなかったりする…?)
     そんな風に良太猫が思うのも仕方がない。
     ひたすらにこの美しい少女のみを見つめる鴆なのだが、当の彼女もひたすらに鴆だけを見つめている。
    「鴆さま」
     そうして彼女は鴆の名をもう一度囁く。
    「「っ!!!」」
     息を飲んだ音は複数。良太猫は勿論のこと、鴆の連れの男。猩影もだろう、鴆は、と見ると彼もやはり驚いた顔をしていた。浮いた両腕が、落ち着く先を探すように彷徨っているのが妙に目につく。
    (そこは抱き締めるところでしょうよ、鴆のだんな)


    な、感じの妄想大爆発!本です。
    いろいろ入り混じっている本ですが、どうぞよろしくお願いいたします★

    ハニームーン<過去ログ>

    注!女ロイです!!!


    ここにはいない、貴方達。


     鍵を差し込む。僅かな手ごたえと共に錠が開いた音がかすかにしたが無感動にロイはそのまま鍵穴に差し込んだ金属を抜き取った。金属製の重たい扉を無造作に開く。
    『ちゃんと室内を確認してから扉は開けてください!』
     耳に染み付いている声は、ロイの能内で響くだけだった。痛いほどにその現実をロイは知っていた。
     扉の中に身を滑らせる。背後は振り向かなかった。ロイをここまで送ってきた司令部の部下は、アパルトメントの前で車を止めてロイを下すとそのまま司令部に戻っていたからその必要すらなかった。それをどんな教育を受けているのかと咎めるつもりはなかったし、むしろその方がありがたいのかもしれない。今ロイのそば近くには味方はないと言っても過言でない変わりに、差し迫った命の危険もなかった。ただロイがまだたどり着いていない思惑の中で、ロイはそれなりに重要な駒だと思われていることはわかっていた。だから、親友の命を奪ったような理不尽で恐ろしい力にロイの命が奪われることはない。これを不幸中の幸いと言っていいものかは悩むところだったが、それでも離れていかなければならなかった部下達に、自分の訃報を届ける危険が減ったことは歓迎しなければならないだろう。
     滑り込んだからだのあとにしまった扉を振り返り厳重に施錠する。これは体に染み付いた癖のようになっている。ロイが自発的に憶えた癖ではない、数ヶ月前までは常に傍にいた護衛官がしつこいくらいに繰り返してロイに覚えさせた癖だ。
    『いいですか、あんたが強いのなんて知ってるけど、でも出来る限りの用心はしてくださいよ。俺がいつでもくっついていたいけど、残念なことにそれは出来ないんだから。自覚してくださいねアンタはものすごく強くておっかない焔の錬金術師であると同時に、可愛くて美人の俺の恋人なんですから!』
     俺が離れてる間にアンタになにかあるんじゃないかって考えるだけでどうにかなっちまいそうなんだから、少しだけでも俺を安心させて。
     そう、冗談じみた声で告げたくせに彼の瞳は見たことがないくらい真剣で、強がることも忘れたロイは深く頷いた。想われる幸せというものを噛み締めて、両腕いっぱいに捧げられたそれの上手な返し方を知らなかったから、せめて彼が望むようにと。
     そうして持ち合わせていなかった習慣をしみこませたというのに、その彼がいない。
     傍にいる、と言った同じ声で彼はロイから離れるとそう言ったのだ。
     ふる、と肩が震えた。東部ほどではないが、セントラルの秋ももう深まってきているのだ。そっと伸ばした指先に触れる硬い軍服の生地が硬くて、知らずと息が漏れた。去年は、あの東部で過ごした秋にはこんな冷たさを知らなくて済んだのに、彼がいないだけでこんなに。
     ぎゅう、と体を抱き閉める。いくら自分の腕で体を包んでも、いつまでたっても彼の大きな腕が包んでくれたようには温まらなくて、どんどんと体温が奪われていくようだった。
     膝に力が入らなくて、ふらりと体勢が崩れるのを情けないと思いつつも止められなかった。わかっている、彼が悪いのではないし彼は帰ってくるとそう言った。信じていないのではない、きっと彼は約束を守ってくれると知っている。それなのにこうやって一人の夜を悲しがって嘆くのは、自分の弱さに他ならない。
     どのくらいそうしていたろう。すっかり冷え切ってしまった体を、ロイは扉からようやく離した。そして背を預けていたそれに半身だけ向き直った。そうやって息を殺して数秒、聴こえてきた足音にロイは眼を見開いた。まさか、と思っているうちに足音はロイの部屋の前にまで移動してきた。疑いようのない気配に、ロイがドアに手をかけるのと、軽やかな声がするのは同時だった。
    「ローイ、とりっくおあとりーと?」
     天使の声、とそう言ったのは親ばかな親友だった。確かにそう表現してもいいだろう、傷なんて一つもまだ見えない柔らかで綺麗な声が耳に届いた。
    「エリシア!こんな夜中に…グレイシア、なにが…っ!」
     慌てて開け放ったドアの向こう、可愛らしい魔女の扮装をした幼い少女と、彼女を抱き上げる親友の妻を見つけて驚愕する。細い腕に抱かれた少女は、最近ではあまり見ないほどに上機嫌でにこにこと笑っていて、ロイはこの少女に降りかかった哀しみがすべて嘘だったような錯覚を覚えてしまい、不覚にもそれ以上の声を失って、ロイは立ち尽くした。
    「ロイ、こんばんは」
    「グレイシア…こんな時間に出歩くなんて!送っていくから、ちょっとなかに入って待って、」
    「だめ!今日はエリシアは魔女なんだからおうちに入れちゃ駄目なのよ、ロイ!」
     するりと母親の腕から滑り降りた少女は可愛らしい声で高らかに呪文を唱えた。ロイの日常の中から消えて久しい出来事にあっけに取られながらも、それでも彼女らの身を案じる心は何とかロイに言葉を取り戻させたのだが。
    「エリシア、あのね」
    「そうよ、ロイ。この小さな魔女さんの悪戯は結構すごいんだから?ちゃんと選んでくれなくちゃ?」
    「すごいの!だから選んでロイ!」
     ロイの焦りなんてまるきり無視して笑うグレイシアの顔が、親友のそれと酷似しているような気がして息が止まるような気分をロイは味わった。彼の血を引いているエリシアならまだしも、と言い表せない感覚がロイを途惑わせる。そうするうちに、いつの間にか伸ばされた幼い指先がロイの頬に触れて再び囁く。
    『トリック、オア、トリート?』
     ロイにとって暖かい思い出しかない呪文。何の思いでもなかったそこに、暖かいそれだけを塗りこんでくれたのは、今はここにはいない彼と、今微笑みを浮かべて立っている彼女。
     小さな銀糸のルージュケース、ショコラの甘い香り。そっと唇に刷いた淡い色彩。甘い鼓動に、見開かれた青い瞳がたわんで、やがて与えられた甘い香も塗りつぶしてしまうくらいの、苦い口づけ。
     掠れる視界に見えた、金色の睫。
     暖かさしか、なかったあの世界。
     思い出して。
    「ごめん、ね。エリシア…お菓子はないの」
     忘れていたから、何もかも。そう胸の中で呟いて、すぐさまに否定した。違う、忘れていたんじゃなくて知らないふりをしていたのだ、暖かさが今傍らにない真実を認識したくなかったから。
     自嘲することも出来ない弱さに少女の髪を撫でてやることすら途惑われて、ロイは手を握り締めた。
    「それじゃあ、悪戯ね!ローイを魔女のお城にごしょうたいします!」
    「エリシア、」
    「お菓子がないなら、悪戯は受けなきゃいけないわ、ロイ」
    「グレイシアそういうことではないんだ、私があなた達のところにいくことは出来ないわ、わかってるはずでしょう貴女には」
     きっとエリシアに触れられないのは、ロイの弱さだけではなく現実としてそうすることで彼女に迫る危険を、ロイが知っているからでもあり、そしてロイが知るのと同じように親友の妻である彼女が知らぬはずはないのだ。そう、その薬指に光る指輪にを外さぬ彼女に。
     だから、と告げるロイに、だからよ、と言葉遊びのようにグレイシアが返す。怒りに似た感情を憶えるのは致し方がないことでもあったと思う。ロイはもう有無を言わさずに彼女達を自宅の中に引きこもうとしたが、もう一度大丈夫だと言う彼女の声に動きを止めた。
    「大丈夫よ、ロイ。今日はあの人がいるんだもの」
     還っているわ、そばにいるの。
    「あの人がいるのに何か、なんて起る筈がないの。知ってるわ、だから大丈夫なのよ」
     ここにいるから、だから恐がらないで。
    「一人で居ないで。お願いよ」
     ふわりと微笑む笑顔がやはり親友に重なって、唇を噛み締めるロイを、やはり優しい笑顔でそっとグレイシアは咎めた。彼女の右手は、幼い娘とずっと繋がれている。しかしもう片方の手には、可愛らしい、小さな籠が下げられていて、その存在にロイが気がついたのはそれを目の前に差し出されてからだった。
    「貴方の魔法使いから」
     反射的に受け取ってしまったそれを覗き込んでみれば、籠の中に詰められていたのは檸檬色とソーダ色をしたおおきな丸い飴玉。ころころとしたそれは口に含むと頬が栗鼠みたいにぷっくりと膨れてしまって、滅多にロイは人前で口にしたことなんてなくて。素朴なつくりと味が幼いころから大好きで、でもそれを知らなかったように生きてきた時期すらあった。
     抱える業の凄惨さに、優しく甘いそれに触れることも許されない気すらしていたのを、いつの間にかそっと差し出してくれた。
     花や宝石、その能力や容姿に対する賛辞の言葉は幾つも幾つも捧げられた、それでも。
     こんな小さくて甘いものが似合うと、貴方らしいとそう言ってくれたのは、たった一人だけだった。
    「彼の色ね、ロイ?…わざとなのかしら、これ?」
     覗きこんで問いかける言葉に、これを選んだのがグレイシアではなく彼自身だと知らされて、喉がつまる気分がする。そばに居られないから。追いつくまでは。そういって最後に彼を見送ることもなく別れてしまうしかなくて、見かけによらず頑固な彼とは彼が病院を移ってしまってからはそれから本当に一度も会うことがなかった。なのにこんな不意打ちをかけてくるのだ、まるで何処かで見ていたようなタイミングで。ロイが人知れず、押しつぶされそうになっている時に限って。
     それは触れられる位置に居てもいなくても、かわらないのだと知らされるのに。
    「わかってなんかないわ、あいつは本当にこういうことは鈍感なんだから」
     ロイがこの二つの色が一番好きだと言った理由も気がつくことができないのだ、蜂蜜色の髪とソーダ色の瞳のロイの魔法使いは。
     ロイの言葉に、あらあらとグレイシアは微笑み、それを彼女に手を繋がれたエリシアが真似をしてふたりの笑いを誘った。実際、エリシアのその仕種は驚くほどグレイシアに似ていたし、それ以上に親友を思い出せた。
     行きましょう、とグレシアの優しい声と同時に差し出されたエリシアの小さな手をとる。ロイとグレイシアに手を引かれるエリシアは、柔らかな頬をばら色に染めて幸せそうに笑っている。銀色の指輪が光る左手は、きっと親友が握っているのだろうと、ロイは笑って歩き出した。
     そばにも居ないし、触れることも出来ないけれど自分の左手も彼に繋がっていることをもう疑うことはなかった。


     それがきっとこの日彼がロイにかけた魔法。


    蜂蜜と、ソーダ色のまあるい飴玉の下に隠れた手紙を、彼女が見つけるのはもう少し先の話。彼女のたったひとりの魔法使いの、一番の願い。
     『笑っていて、俺の魔女』

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